「さあ、このへんでいいだろう。ここから下にいるおまえを見てごらん」
「えっ、わたしはここにいるのに?」
「ここにいるおまえは、あの世に行ったおまえのつもりになるんだよ。こから、人生の旅の途上で、いままさにあの森の、あそこにいるおまえの姿を見てごらん」
「森は遠くて、娘の姿さえも見えないわ」
「見えるつもりになればいいんだよ。ほら、おまえは、あの森で生まれ、育ち、となりの森に嫁に行って、しあわせな日々を過ごしたあげくに夫を殺され、悲しみのどん底に落とされながらも、残された息子とともに、やがて力強く立ち直って、前を向いて生きていこうとしている」
ノラには、そんな自分の姿が見えるような気がしました。
とてもけなげな、いじらしいほどけなげな自分の姿でした。
地上に戻ると、ノラは見違えるほど元気な顔でニーロにお礼を言い、それから、ちょっとはにかんで言い足しました。
「お空に高く上がっていったら、ほんと、お空がだんだん黒くなったわ。ニーロの言ったとおりよ」