抱きしめる

「なんとむごいことを。かわいそうに」

駆けつけた女王が心を込めて抱きしめても、ノラはただ身を固くしたま抱かれているだけです。女王のいたわりは、石のように冷たくなったノラの心には届かないのです。

女王は思いついて、手立てを変えることにしました。赤ちゃんを抱いてあやしていたノラのお母さんを呼んで、こう言いつけたのです。

「娘さんの手を取って、『いとしい娘よ、お母さんの腕の中へおいで』といってやさしく誘うのよ。でも、力を入れて強く引いてはいけません。最初のうちは、心を込めて、でも蜘蛛の巣の糸を引くようにそっとね」

お母さんは赤ちゃんを夫に預けてから、ノラの手を取りました。心を込めて引いているほどに、最初はかすかに、そのうち目にもはっきりと、「いやいや」という声なき声が体の動きに現れ、しばらく手と手で押し問答をしていたかと思うと、悲しみが一気に噴き出てきて、ノラはなつかしいお母さの腕の中に飛びこんで、思い切り号泣したのです。

ノラの泣き声が高まるほどに、赤ちゃんの泣き声がかえって穏やかになってきたのがふしぎでした。ノラはようやく親しい相手に心を開きはじめたようです。

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