女王がそんな思い出にふけっているとき、遠くのほうから、かすかに赤ゃんの泣き声が聞こえてきました。
「聞き慣れない泣き声だこと」
女王は首をかしげました。
泣き声はいっこうにやむ気配がありません。それどころかますます、悲痛なまでに高まっていきます。
そこへ、いつしかりっぱな若者になったニーロが駆けこんできました。
「女王さま、どうか助けてください。となりの森に嫁に行ったノラが、実のご両親の話では、夫を人間に殺されたとかで・・・」
「なんだって」
「・・・赤ん坊を連れてこちらに戻ってきたのですが、悲しむでもなく、怒るでもなく、口をきくでもなく、石のように押し黙ったままです。赤ん坊ずっと泣きっぱなしだもんで、みんなで困っています」
なんでも、となりの森に狩りにやってきた男が、熊か何かと見まちがえ撃ったらしいのですが、「トロルを撃ってはならない」という定めが国の律にあるのを知っていたからなのでしょう、遺体をそのたままにして逃げ去ったらしいのです。