抱きしめる

あるうららかな春の朝、森の女王はふと、トロルの男の子のニーロと女子のノラが、昼と夜とではどっちがえらいかという、たわいもない言い合いをしていたのを思いだしました。

「それは昼に決まっているわ。森のいのちがあるのはみな、お日さまのおかげよ」

「ちがうよ。ほんとはな、この宇宙はどこもかしこも暗闇だらけなんだってよ。それが証拠に、いつか女王さまがおっしゃっていたぞ、お空を高く高く昇っていくと、青いお空がだんだん黒くなっていくんだって」

「そんなのうそよ。きっと、女王さまが昇って行くのにいっぱい時間がかかって、夜になってしまったんだわ。昼は昼、夜は夜よ」

「でも、でも、北のラップランドに行くと、朝になってもお日さまが昇ってこない暗い冬が何日も何日も続くそうだぞ」

「何を言うの。朝になってもお日さまが出てこないなんて、そんなばかなことがありっこないわ。曇っていたって、雨が降っていたってお日さまは出てるのよ。お日さまが出ないなら、それはまだ夜。朝じゃないってことよ」

「朝か。朝っていいよな」
旗色が悪くなったニーロは話題を変えました。

「朝は、まだ昼ではないが、夜でもない。朝目覚めると、あたりはまだほの暗い。でも、いまに明るくなることをぼくは知っているから、起きたら何しようかという期待で、ぼくの胸はふくらむ」

そんなたわいもないやりとりをほほえましく聞いたのはもうずっと前のとで、いまではふたりはとっくにおとなになっていて、ノラは何年か前にとなりの森の若者のところにお嫁に行きました。

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